哺乳類最長の心臓再生可能期間を持つオポッサム -新たな心筋再生法の開発に期待-
理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター心臓再生研究チームの西山千尋テクニカルスタッフ、木村航チームリーダー、熊本大学国際先端医学研究機構(IRCMS)の有馬勇一郎特任准教授らの共同研究グループは、有袋類[1]であるハイイロジネズミオポッサム(Monodelphis domestica、以下オポッサム)の新生仔は、出生後2週間以上にわたって心臓を再生させる能力を持つことを発見しました。
本研究成果は、心臓の再生医療を可能にする新たな治療法の開発に貢献するものと期待できます。
マウスなどの哺乳類は、胎仔期や出生後数日間に限り、心筋梗塞[2]などによる心筋の損傷を再生する能力を持つことが知られています。
今回、共同研究グループは、有袋類であるオポッサムの新生仔は、出生後少なくとも2週間にわたって心筋細胞の細胞分裂を継続し、心筋再生能力を維持できることを発見しました。この維持期間は既知の哺乳類において最長です。また、マウスとオポッサムの心臓組織の遺伝子発現を網羅的に比較することで、AMPKシグナル[3]の活性化が哺乳類での出生後の心臓再生能の喪失に重要な役割を果たすことを示しました。
本研究は、科学雑誌『Circulation』オンライン版(5月26日付:日本時間5月26日)に掲載されました。
【補足説明】
[1] 有袋類、真獣類
現生哺乳類の分類群。有袋類は発達した胎盤を持たず、未熟な状態で生まれた新生仔は、体外で母乳を飲んで成熟する。一方、多くの哺乳類が含まれる真獣類(有胎盤類)は、胎盤を介して母体から胚に栄養分を供給する。
[2] 心筋梗塞
心臓に酸素を供給する動脈が閉塞し、酸素不足となった心筋が壊死する心臓病。
[3] AMPKシグナル
細胞内シグナル伝達系の一つで、細胞内のエネルギー源の枯渇に応答して活性化され、ミトコンドリア代謝の上昇などによりエネルギー産生量を増やすなどの働きを持つ。AMPKは5?-adenosine monophosphate-activated protein kinaseの略。
【論文情報】
論文名:Prolonged Myocardial Regenerative Capacity in Neonatal Opossum
著者:Chihiro Nishiyama, Yuichi Saito, Akane Sakaguchi, Mari Kaneko, Hiroshi Kiyonari, Yuqing Xu, Yuichiro Arima, Hideki Uosaki, and Wataru Kimura
掲載誌:Circulation
【詳細】 プレスリリース (PDF780KB)