筋肉の過剰な環境適応を抑える仕組みを解明ー筋肉機能向上と健康寿命延伸に向けてー
【ポイント】
- 遺伝子発現調節タンパク質であるLSD1が筋肉の環境ストレス応答を緩和することで、過剰な環境適応を防ぐことが分かりました。
- 骨格筋でのみLSD1を欠損するマウス(LSD1-mKOマウス)に筋萎縮誘導性の薬剤デキサメタゾンを投与すると、野生型マウスと比較してより顕著な筋萎縮を起こし筋力が低下しました。
- 自発運動トレーニングによる持久力向上効果は、野生型と比較してLSD1-mKOマウスで増強されました。
- マウスやヒトの筋肉でLSD1量は加齢と共に減少することから、LSD1は加齢に伴うストレス感受性の変化に関与している可能性があります。
- 【概要説明】
熊本大学発生医学研究所細胞医学分野の荒木裕貴研究員、日野信次朗准教授、中尾光善教授らは、遺伝子発現に関わる酵素「リジン特異的脱メチル化酵素1(LSD1)※1」が筋肉の環境ストレス感受性を調節する因子であることを明らかにしました。
筋肉は、運動や食事等のさまざまな環境因子によって量や質が調節されますが、このような性質を司る遺伝子機能調節の仕組みはよく分かっていませんでした。
この成果は、筋肉の環境適応メカニズムの一端を解明するものであり、筋肉の機能維持による健康寿命延伸を実現する上で重要な手掛かりになります。
本研究成果は、文部科学省科学研究費補助金、中冨健康科学振興財団研究助成、武田科学振興財団研究助成などの支援を受けて、オンライン科学雑誌「eLife」に米国時間の令和5年1月26日に掲載されました。なお、本研究は熊本大学発生医学研究所筋発生再生分野の小野悠介教授、同大学大学院生命科学研究部代謝内科学分野の荒木栄一教授らとの共同研究で行ったものです。
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【展開】
本成果には、医学生物学の観点からいくつかの重要な意味があります。加齢に伴ってアウターマッスル量が減り筋力が低下するサルコペニアと呼ばれる病態は、高齢者の生活の質を著しく低下させる要因となります。マウスとヒトの筋肉におけるLSD1の発現は年齢とともに低下し、筋萎縮遺伝子の発現と負の相関を示します。生活習慣や薬剤によってLSD1を増やして活性化することができれば、筋肉の健康維持に繋がる可能性があります。一方、持久トレーニング時にLSD1機能を抑制できれば、インナーマッスル量の低下を特徴とする廃用性萎縮(筋肉を長期間使用しないことで起こる筋力低下)の予防と管理に有益である可能性があります。ライフステージや生活環境に応じてLSD1機能をコントロールすることで、健康長寿のための新しい戦略が期待できます。
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【用語解説】 ?????
※1:リジン特異的脱メチル化酵素1(LSD1):タンパク質中のメチル化されたリジン(アミノ酸のひとつ)のメチル基を除去する酵素。ヒストンH3タンパク質や転写因子の機能を調節して遺伝子発現制御に働く。
【論文情報】
- 論文名:LSD1 defines the fiber type-selective responsiveness to environmental stress in skeletal muscle
(LSD1は、骨格筋における線維型選択的な環境応答を規定する) - 著者:Hirotaka Araki, Shinjiro Hino*, Kotaro Anan, Kanji Kuribayashi, Kan Etoh, Daiki Seko, Ryuta Takase, Kensaku Kohrogi, Yuko Hino, Yusuke Ono, Eiichi Araki, and Mitsuyoshi Nakao*?? ???(* 責任著者 )
- 掲載誌:eLife
- DOI:10.7554/eLife.84618
- URL:https://elifesciences.org/articles/84618
【詳細】 プレスリリース(PDF513KB)
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お問い合わせ
熊本大学発生医学研究所 細胞医学分野
担当:准教授 日野 信次朗(ひの しんじろう)
教授 中尾 光善 (なかお みつよし)
電話:096-373-6804
E-mail:s-hino※kumamoto-u.ac.jp
?? mnakao※kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)